年々外国人労働者の受け入れが拡大する中、日本企業にとって重要なのが「年間スケジュールの調整」です。採用した外国人材の出身国によって、帰省時期や休暇の取り方には大きな違いがあります。特に、宗教的行事や国民的な祝祭日は、帰国希望者が集中するタイミングとなるため、事前の理解と対応が不可欠です。
本記事では、主要な外国人採用国であるベトナム、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、ネパールの年間行事と、就労調整の際に留意すべきポイントを国別に解説するとともに、それぞれの文化的背景や企業側に求められる姿勢についても深掘りしていきます。日本企業に馴染みやすい国とその特徴については以前のこちらの記事をご覧ください。
ベトナム:テト(旧正月)と家族中心の価値観
- テト(旧正月):毎年1月下旬〜2月中旬(旧暦)。最も重要な祝祭で、多くのベトナム人が帰国を希望。
- 4月30日:南部解放記念日
- 5月1日:メーデー
- 9月2日:建国記念日
文化的背景:
ベトナムでは祖先崇拝や家族を中心とした価値観が根強く、テトには実家で家族と過ごすことが当然とされています。この時期は仏壇の清掃や供物を供えるなど、日本での盆と正月を足したような宗教的・文化的意義があります。
留意点:
1〜2か月前から帰国希望を出す人が多いため、早期のスケジュール調整が必要です。可能であれば、毎年1月には交代要員を用意し、安定した業務体制を築いておくと安心です。
フィリピン:クリスマスとカトリック信仰
- クリスマス(12月24日〜25日):フィリピンでは10月から準備が始まるほどの重要行事。
- 新年(1月1日):家族で過ごす習慣があるため、帰省を希望するケースも。
- 聖週間(Holy Week):3月〜4月。復活祭前後に長期休暇を取る人が多い。
文化的背景:
国民の約80%がカトリック教徒であるフィリピンでは、宗教行事が日常生活に深く根付いています。特にクリスマスは家族と過ごす時間が最優先され、帰国希望が非常に多い時期です。
留意点:
12月の繁忙期と重なることも多く、企業としては業務分担を工夫する必要があります。事前に代替作業員や調整要員を確保しておくと、スムーズな業務継続が可能です。
インドネシア:ラマダンと「帰省文化」
- ラマダン(断食月):毎年イスラム暦で変動(通常4月〜5月)。
- レバラン(断食明けの祝祭):最大の帰省ラッシュ時期。
- 犠牲祭(イド・アル=アドハ):7月〜9月に行われる重要な宗教儀式。
文化的背景:
インドネシアではイスラム教が国教であり、断食とその後の祝祭(レバラン)は家族との再会、宗教的浄化、コミュニティとの交流を意味します。「ムディック」と呼ばれる大規模な帰省文化があり、多くの国民が故郷に戻ります。
留意点:
断食期間中は作業効率が低下しやすいため、労働環境の配慮が必要です。また、ラマダン明けには長期休暇を希望する労働者が多く、計画的な体制が不可欠です。
ミャンマー:仏教中心の暦とティンジャン
- ティンジャン(水かけ祭り):毎年4月中旬。最長1週間の祝祭。
- 仏誕節:4〜5月ごろ。
- 独立記念日:1月4日。
文化的背景:
人口の大多数が上座部仏教徒であり、仏教の行事が年間スケジュールの中核を成しています。特にティンジャンでは人々が街中で水をかけ合いながら悪を流し、新年を迎える儀式を行います。
留意点:
この時期の帰国希望は非常に多く、前後で10日前後の休暇を希望するケースもあります。計画的な人員補充が求められます。
ネパール:ダサインと多民族・多宗教国家ならではの習慣
- ダサイン:ヒンドゥー暦で9月〜10月。最大の祭りで15日間続く。
- ティハール:光の祭り(10月下旬〜11月)。
- ネパール新年:4月中旬。
文化的背景:
ネパールはヒンドゥー教を中心に、仏教、イスラム教などが混在する多宗教国家です。特にダサインは家族での再会と宗教儀礼が複雑に絡み合い、帰国希望が非常に強いイベントです。
留意点:
長期にわたる休暇を希望する傾向があり、日本の繁忙期と重なりやすいため、柔軟な業務管理が求められます。
文化的配慮が定着率とモチベーションを左右する
各国の年間行事や文化的背景に配慮した雇用管理を行うことは、単なるスケジュール調整以上の意味を持ちます。
- 従業員満足度の向上:企業が自国の文化を理解し尊重してくれると実感できることで、外国人材の帰属意識が高まります。
- 定着率アップ:文化的衝突や無理解による離職を防ぎ、長期雇用に貢献します。
- 業務の安定化:休暇取得や行事対応が計画的に行えることで、突発的なトラブルも減少します。
「異文化を尊重する姿勢」は、国際化する日本企業にとって今後ますます重要になる要素です。また姿勢だけでなく、外国人材の国別の年間行事や帰国タイミングを踏まえたマネジメント体制を構築し、会社・組織にとってのメリットを最大化・最適化できるような経営が求められるようになります。別の記事で外国人材を採用したマネジメント体制の構築・運用方法についてお伝えしていきます。
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