これからの外国人雇用では、企業側の制度理解と受け入れ体制の成熟が求められます。本記事では以前の記事でふれた育成就労についてさらに深く、企業が育成就労制度時代に備えて整えるべき準備と心構えについて解説します。
制度面での準備
◆ 育成就労計画の策定と認定取得
育成就労制度を活用するためには、まず「育成就労計画」を策定し、所轄の出入国在留管理庁から認定を受ける必要があります。
計画書には、外国人材に担ってもらう就労内容、指導方法、指導者の配置体制、技能習得のステップなどを具体的に記載しなければなりません。また、日常生活支援に関する計画や相談体制の整備も含まれます。
これは従来の技能実習制度よりも厳格で、企業の主体的な関与が強く求められる制度です。形式的な書類だけでは通用せず、実効性のある体制が整っていることが審査で確認されます。
◆ 社内制度・契約書類の整備
育成就労者も日本人と同様に労働法の保護対象です。
雇用契約書、就業規則、賃金規程、福利厚生制度などが日本人社員と整合的に整備されている必要があります。
特に注意すべきは、日本語の読解力や文化の違いによる「誤解の発生」。契約書や就業説明資料には、やさしい日本語や多言語併記の工夫が重要です。
また、不利益変更(例:途中で条件を下げる)や曖昧な表現はトラブルのもとになります。
◆ 転籍制度への対応
育成就労制度では、一定の条件を満たせば「転籍(企業変更)」が認められています。
そのため、「働き続けたい」と思われる企業文化や待遇整備が極めて重要です。
定着率を上げるには、給与面だけでなく、働きやすさ・安心感・成長実感のある環境づくりが不可欠です。ライバル企業との差別化が、離職防止に直結します。
実務運用における準備
◆ 教育・育成体制の整備
育成就労制度の主眼は「人材育成」にあります。
受け入れ企業には、業務遂行スキルだけでなく、職場内教育(OJT)と日本語教育(N4以上の維持・向上)を両立して提供することが求められます。
また、育成の先にあるキャリア形成として、「特定技能1号」や「2号」への移行支援を視野に入れた中長期的な成長プランを描くことが重要です。
外国人材にとって「この企業でキャリアを築ける」と思えることが、モチベーションと定着率向上につながります。
◆ 生活支援・相談体制の構築
言語や文化の壁を乗り越えるには、生活面での包括的な支援が必要です。
具体的には、以下のような支援体制が求められます:
住居の手配や契約サポート
医療機関への同行、通訳体制の確保
生活オリエンテーション(交通ルール、ごみ出しルール、公共マナー等)
社内相談窓口の設置や、異文化理解研修の実施
特に心理的安全性の確保が重要であり、「困ったときに相談できる場所がある」という安心感が、定着・パフォーマンス向上に寄与します。 こちらは育成就労だけに限った話ではなく、外国人採用全体にいえる共通のテーマかと思います。
◆ 外部機関との連携
育成就労制度の実務には、登録支援機関、社会保険労務士、行政書士、地域行政との密な連携が不可欠です。
支援計画の作成、在留資格の手続き、法令遵守のチェック、情報提供など、単独の企業で完結させるには限界があります。
専門家とのネットワークを構築し、制度変更への迅速な対応力を持つことが、長期的な運用の安定に直結します。
経営層・人事部門の心構え
◆ 「労働力確保」から「人材育成」へ
育成就労制度は、単なる労働力補填策ではなく、企業と外国人材が共に成長していくための枠組みです。
採用時点から「どのように育てるか」「何を任せるか」「将来のキャリア像は何か」といった視点で取り組む姿勢が問われます。
◆ 「異文化を活かす組織」づくり
異文化理解を前提とした職場文化の醸成が成功の鍵です。
以下の取り組みは、企業の体質強化にも直結します:
ハラスメント防止研修の定期実施
ダイバーシティ&インクルージョン研修の導入
異文化コミュニケーションに関する社内共有会
社員一人ひとりが異文化への理解を深めることで、トラブル予防にもなります。
◆ 「離職リスク」に備えた魅力ある企業へ
給与や労働条件はもちろん、福利厚生や人間関係、働きやすさといった「非金銭的な価値」も重要な要素です。
例えば:
社員食堂の無料利用
レクリエーション活動への参加促進
メンター制度の導入
定期的な面談によるフォロー体制
外国人材にとって「ここで働くことが誇り」と思える職場づくりが、制度成功のカギとなります。
まとめ
育成就労制度は、企業にとって外国人材との新たな協働の枠組みです。
これまでの「安価な労働力」としての採用から脱却し、「共に成長するパートナー」としての受け入れが求められます。
しっかりと制度を理解し、社内外の体制を整備することで、外国人材の能力を最大限に引き出し、持続可能な成長につなげていきましょう。
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